日本透析医会便り


愛知県透析医会副会長
太田圭洋

はじめに

 日本透析医会副会長の太田圭洋です。この原稿を書いているのは7月初旬、第7波に向け徐々にコロナ患者が増え始めている時です。今回オミクロン株の中でもBA5という亜種がBA2から急激に置き代わりつつあり、そのウイルス特性しての伝搬性の高い、および人々の活動の拡大、ワクチン効果の減衰が重なったことが原因と考えています。しかし諸外国と比較し自然感染による免疫獲得者が少ない我が国では、爆発的な感染拡大を許した場合に、特に高齢者、基礎疾患のある患者を中心にかなりの規模の死亡者が出るとの予測もあります。社会はWITHコロナに向かって急激に変化をしつつある中、特に透析患者を支える我々は、今後も継続的に感染防止対策を行っていくことが求められると思われます。
 新型コロナウイルス関連の情報は、日々更新され新しい情報がどんどん出てきますが、今回の日本透析医会便りでは、情報提供として2022年4月の診療報酬改定の内容と日本透析医会の対応に関して報告させていただきます。

1.2022年診療報酬改定の内容

1-1 慢性維持透析の点数引き下げ、及びHIF-PH阻害薬の包括化

 2019年11月に我が国で最初のHIF-PH阻害薬であるロキサデュスタットが上市された 直後、HIF-PH阻害薬は院内処方での使用に制限され、既存の人工腎臓点数で対応することとなりました。しかし前回2020年の改定において、HIF-PH阻害薬を院外処方した場合の人工腎臓点数が新たに設定され、HIF-PH阻害薬を院外処方することが認められました。これは多くの透析医療機関が院外処方に移行していることに配慮したものでしたが、今回の改定では、再度、HIF-PH阻害薬は院内処方することが原則という扱いに変更されることになりました。
 中医協総会での議論では事務局から見直しの理由として、他院で処方されたHIF-PH阻害薬を維持透析施設に持ち込み腎性貧血管理が行われた場合に、どのように請求するか算定ルールが混乱していること、および院外処方されている割合が非常に低いことがあげられています。議論において診療側の複数の中医協委員から、実際に院外処方されている事例が少ないながらも一定数あることから、院外処方ができるよう配慮すべきとの意見も出されましたが、結果として、HIF-PH阻害薬は院内処方することが原則という扱いとなりました。
 ただし、「欠品などやむを得ない事情でHIF-PH阻害薬の院内処方が難しい場合は、保険薬局から同薬剤を患者に供給してよい。その際の当該薬剤の費用については、保険医療機関と保険薬局との相互の合議に委ねる」との解釈が3月31日発出の事務連絡で示されています。
 日本透析医会は、多くの透析医療機関が院外処方を行っている実状を保険局医療課担当者に伝えるとともに、院外処方の道が完全に閉ざされることにならないよう強く要望してきました。その結果、答申告示も「院内処方が原則」と、一部例外の存在を認める表記となり、上記の事務連絡が出されることにつながりました。
 また今回の改定で慢性維持透析の技術料はこれまでの改定と同様に、包括されているESAの実勢価格が下がっていることを理由に引き下げが行われました。従来のESAを包括した点数は、透析時間、コンソールあたりの患者数に基づく施設基準に関わらず、一律で1透析あたり39点の引き下げとなっています。

1-2 慢性維持透析患者外来医学管理料の引き下げ

 透析患者に対しての包括検査料として設定されている慢性維持透析患者外来医学管理料(慢透)も、検体検査の実勢価格が下がっていることを理由に、本改定で39点引き下げられました。検体検査点数は改定ごとに徐々に実勢価格の低下を反映し下げられてきていますが、包括して設定されている慢透は、ここしばらく点数が据え置かれてきました。過去にも数回に1回、それまでに下がった分をまとめて検査包括点数の引き下げが行われており、今回の改定で引き下げが行われることとなりました。

1-3 人工腎臓導入期加算の見直し

 慢性腎臓病の患者に対する移植を含めた腎代替療法に関する情報提供を推進するという観点で人工腎臓の導入期加算が見直され、これまでの2段階だった導入期加算が3段階となりました。また、同加算の算定には一般社団法人日本腎代替療法医療専門職推進協会が認定する腎代替療法専門指導士の配置が求められることとなりました。
 腎代替療法専門指導士は看護師・保健士、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技士、移植コーディネーター、医師(認定医・専門医)のいずれかで、腎臓病領域の診療実績があり、各学会の専門または認定資格を有することが取得の条件になっています。日本腎代替療法医療専門職推進協会に入会し、腎代替療法選択指導に関する20単位(1単位50分)のe-ラーニング受講を行い試験に正解することで申請し書類審査を経て認定されます(資格によって一部受講の免除あり)。
 導入期加算それぞれの条件は省略しますが、導入期加算3は腎移植の実績が必要です。 導入期加算2以上では腎代替療法専門指導士の配置と研修が条件となり、腹膜透析に関する要件も厳しくなりました。点数は導入期加算2が500点から400点に引き下げられた一方、新設された導入期加算3は800点とかなり高い点数が設定されました。
 また、これまで導入期加算2の施設基準を満たしていることが条件だった慢性維持透析患者外来医学管理加算の腎代替療法実績加算(100点、1月につき)は、導入期加算2または3の基準を満たしていることが条件となっています。
 なお移行措置として、2023年3月末までは腎代替療法専門指導士に関する要件は免除されています。

1-4 透析時運動指導等加算の新設

 透析中に運動に関する指導を患者に行い実施した場合に算定できる透析時運動指導等加算が新設されました。算定要件として、医師、看護師、理学療法士、作業療法士のいずれかが、透析患者の運動指導に係る研修を受講し、1回の透析中に連続した20分間以上、療養上必要な運動指導等を実施することが求められます。
 指導にあたっては、日本腎臓リハビリテーション学会の発行した「腎臓リハビリテーションガイドライン」等の関係学会によるガイドラインを参照することとされ、研修についても日本腎臓リハビリテーション学会が行うことが疑義解釈で示されています。7月31日ガイドライン研修会がWEB上で行われる予定になっており、10月にも開催されるという情報もあります。
 指導を開始した日から起算して90日を限度として、75点が透析の加算点数として算定できるとされ、当該療法を担当する医師、理学療法士、作業療法士で、1回1人あたり入院で15人程度、外来で20人程度、看護師が担当する場合は、入院で5人程度、外来で8人程度との上限が設けられています。

1-5 有床診療所の療養病床における慢性維持透析管理加算の新設

 2014年診療報酬改定で通院透析困難な透析患者の受け皿の確保を目的に、医療療養病棟に透析患者が入院した場合に算定できる慢性維持透析管理加算が新設されました(100点、入院1日につき)。透析患者は一般の患者に比べ必要な検査、投薬が高額なことが理由です。しかし2014年改定では、本加算は療養病棟入院基本料1を算定している病院病床に限定され、同様の機能を担う有床診療所でこの点数が算定できないこととなってしまいました。そのため、その後日本透析医会からは有床診療所療養病床でも加算算定が可能となるよう継続して要望してきましたが、今回の改定で認められることとなりました。点数は病院の医療療養病床と同じく入院1日につき100点となっています。

1-6 在宅腹膜透析における遠隔モニタリング加算の新設

 本加算は日本透析医学会からの要望によるものです。今回の改定で、在宅腹膜透析患者に対し継続的なモニタリングを行った場合に、在宅自己腹膜潅流指導管理料の加算点数として、月1回115点の遠隔モニタリング加算が新設されました。遠隔モニタリング機能を持つ自動腹膜潅流用装置を使い指導管理をした場合に請求することが可能です。

1-7 在宅血液透析指導管理料の増点と「在宅血液透析管理マニュアル」順守の要件化

 今回の改定で在宅血液透析指導管理料が8,000点から10,000点に大幅に増点されるとともに、実施上の留意事項として「日本透析医会が作成した「在宅血液透析管理マニュアル」に基づいて患者及び介助者が医療機関において十分な教育を受け、文書において在宅血液透析に係る説明及び同意を受けた上で、在宅血液透析が実施されていること。また、当該マニュアルに基づいて在宅血液透析に関する指導管理を行うこと。」と算定通知が改定されました。
 これは近年、高齢者住宅等に入居している通院困難な透析患者に、患者自身に教育訓練を受けさせることなく、透析施設のスタッフが穿刺や回収時に出向き、医師不在の状況で血液透析を行う例が出てきたことが背景にあります。この問題は、治療の責任の所在および安全性の面から日本透析医会や日本透析医学会でも問題視されてきました。その結果、過去には2016年改定において、在宅血液透析指導管理料の算定条件として、「関係学会のガイドラインに基づいて患者及び介助者が医療機関において十分な教育を受け、文書において在宅血液透析に係る説明及び同意を受けた上で、在宅血液透析が実施されていること。また、当該ガイドラインを参考に在宅血液透析に関する指導管理を行うこと」と明記され、十分な教育訓練を行った患者のみが指導料を算定できると修正されてきています。
 2020年に日本透析医会が作成している「在宅血液透析管理マニュアル」の改定では、「在宅血液透析の定義」として、「安全性と責任の所在についての議論が十分になされていない現時点では、透析患者に教育訓練を行わない高齢者住宅等の医療施設外における血液透析は本マニュアルでは在宅血液透析としては扱わない.」と変更されております。
 本改定における算定通知の変更により、高齢者住宅等の医療施設外における医師不在の状況での血液透析は、患者本人および介助者が十分な教育を受けて行う一般の在宅血液透析とは異なり、在宅血液透析管理マニュアルに基づく在宅血液透析ではなく、在宅血液透析指導管理料の算定条件を満たさないことを明確化した形となりました。

2.日本透析医会の本改定における取り組み

 現在、我が国は新型コロナウイルス対応のための巨額の財政出動中です。また75歳以上人口が急増する時期を迎えているため、診療報酬改定を熟知する者からは2022年度診療報酬改定は非常に厳しい状況にあると認識されておりました。また前々回2018年改定において透析医療が狙い撃ちされたこともあり、日本透析医会は2022年度改定の推移に強い関心を持って注視してきました。
 2021年8月31日には、秋澤忠男日本透析医会会長以下、役員が厚生労働省保険局医療課を訪問し、①感染対策コストや透析液薬価の引き上げなどを考慮した適切な人工腎臓点数、②DPC病院や医療療養病棟等の包括請求が求められる病棟で算定可能なブラッドアクセスカテーテル挿入手技料の設定、③有床診療所の医療療養病床における慢性維持透析管理加算、④ADL低下透析患者対応の評価、⑤感染症患者に対する加算の新設、⑥療養・就労両立指導管理料の対象疾患への透析患者の追加、⑦人工腎臓4における慢性維持透析濾過加算の算定、の7点について要望するとともに、2018年改定で新設された効率性指標による人工腎臓点数の区分に関して、「効率性」という医療の質との関連が示されていない指標で診療報酬が区分される方針は合理性に欠くと、この点数の廃止を強く要望しました。
 2021年12月3日の第502回中医協総会において透析関連の診療報酬に関して議論が行われました。論点として①日本における腎移植の現状を踏まえ、慢性腎臓病の患者に対し、移植を含めた腎代替療法に関する情報提供をより推進する観点から、人工腎臓に係る評価の在り方についてどのように考えるか。②有床診療所の入院患者に占める透析患者の割合が増えていることを踏まえつつ、有床診療所療養病床入院基本料を算定する病床において透析を実施した場合の評価の在り方についてどのように考えるか。③人工腎臓においては、使用薬剤の包括評価としているが、HIF-PH阻害剤を用いる場合の評価の在り方について、その使用実態も踏まえつつ、どのように考えるか。④在宅腹膜還流に係る遠隔モニタリングによる管理の評価の在り方について、どのように考えるか。⑤在宅血液透析の生命予後、実施状況や導入に係る医療資源等を踏まえつつ、在宅血液透析指導管理料の評価についてどのように考えるか、の5つが示されました。
 ③のHIF-PH阻害薬の取り扱いについて、事務局である保険局医療課より、他院で処方されたHIF-PH阻害薬を透析医療機関に持参した場合の医事請求上の取り扱いの解釈上の整理に問題が生じていること、及び人工腎臓技術料がきわめて複雑化していることが課内で問題となっているとの情報が日本透析医会に伝えられ、HIF-PH阻害薬の人工腎臓技術料への再包括化の意向が示されました。医会としては、現行の制度の修正で対応すべきと考えるが、もし包括化せざるを得ない場合においても、院内処方が困難な施設に対する配慮を強く要望しました。また中医協総会の場においても、医療側委員から同様の趣旨の発言を行っていただきました。
 在宅血液透析指導管理料についてはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの高齢者施設等で寝たきり患者に同管理料を請求するケースがあることを保険局医療課でも把握し問題視しているとの意見が伝えられた。これに対し、サ高住等で訓練なしに血液透析を行うケースは在宅血液透析として扱わないことと明記した2020年改定の日本透析医会の在宅血液透析管理マニュアルに従うことを算定条件に明記してはどうか、と医会から提案することになりました。
 2022年2月9日の第516回中医協総会における答申で個々の点数を含む改定内容の概要が明らかになりました。HIF-PH阻害薬については人工腎臓技術料に包括化されたが、「院内処方すること」との事前に伝えられた表記を「院内処方することが原則である」と、例外の存在を認める形に修正していただくこととなりました。

3.2022年透析診療報酬改定の考察

 今回の改定では、HIF-PH阻害薬の包括化とともに、人工腎臓技術料が一律39点(390円)の大幅な引き下げとなりました。包括されているESAの実勢価格が下がっていることが理由ですが、ESA薬価の引き下げだけでは、39点の引き下げは説明することは難しいと思います。
 最近の腎性貧血治療薬の薬価の推移から考えるに、ダルベポエチン20μgのバイオシミラーで、平均して腎性貧血の管理が行われていると仮定すると、2020年から2022年で薬価は2573円から1972円と601円引き下げられています。これを1透析あたりに割ると約200円腎性貧血管理コストが下がっていることとなります。しかし週3製剤のエポエチンの場合には1透析あたり87円しか下がっていません。さらにHIF-PH阻害薬に関しては、新しい薬効の薬剤ということでほとんど薬価は下がっていない状況です。ESAがどの割合で使用されていると厚労省に評価されているか詳細は不明ですが、ESAの引き下げ分で説明できるのは、多くて100円台後半と思われます。
 今回の人工腎臓技術料の引き下げは、腎性貧血管理コストの低下だけでなく、今回の改定において透析領域でさまざま行われた見直しに必要な財源を捻出することに使われたことは間違いなく、実際に保険局医療課担当者から、「新たな腎リハの点数がどれくらい算定されるかの評価が難しい」との発言もあり、腎リハの点数は人工腎臓技術料から捻出されていることには留意する必要があります。同じことが導入期加算など他の点数見直しにも当てはまります。
 しかし、現在のところ、腎リハの新たな点数は算定要件が厳しく、かなり算定される件数が少ないことが予想されます。それを考慮するとESAコスト減少分をはるかに上回る390円を引き下げた理由としては説得力に乏しいと感じます。今回の改定は、改定財源のかなり厳しい状況で大幅な見直しが透析以外にも入院、外来など多方面で行われており、透析領域から他の領域の改定財源として財源を移された可能性が高いと思っています。担当者が改定財源の捻出として透析に目を付けたということであり、今後もこのような改定が継続する可能性もあると危惧します。
 透析領域に新たに財源が確保されることは、現在の状況ではほぼ考え難く、透析関連の新たな点数の新設は、その分の人工腎臓点数の引き下げにつながるのみならず、点数見直しの口実を保険局医療課に与え、透析医療から他の領域に財源を持っていかれる可能性を高めることに透析関係者は注意する必要があると思います。透析領域からの改定要望が、その結果として日本の透析医療全体にとって良い方向につながるかどうかとの視点も、診療報酬改定を要望する際には重要だと思います。

おわりに

 年々、透析医療機関を取り巻く環境は厳しくなっています。2022年改定では透析技術料は必要以上に引き下げられた可能性を前述しました。ここ3回の改定を経験し改めて実感しましたが、透析医療に対する風当たりは、政治の世界のみならず医療界の中でも非常に厳しいものがあります。その中で透析医療の実情を理解いただき、適切に透析医療を行っていくことができる環境を維持していくことは決してたやすいことではありません。毎年、日本透析医会だよりで書かせていただいておりますが、この状況を改善していくためには透析医の団結が必要です。現在の透析医療のおかれた状況を分析し、理論武装し働きかけていく必要があることは当然でありますが、実際の交渉過程では、より生々しい組織力、そしてその組織力に裏打ちされた交渉力が重要です。残念ながら、愛知県透析医会会員の約半分は、いまだに日本透析医会へ加入していただいておりません。ぜひ、日本透析医会にご加入いただき透析医の組織としての力を高め、透析医療の将来のために力をお貸しいただきたいと思います。
 (文責 太田圭洋)