
日本透析医会便り
愛知県透析医会副会長
太田圭洋
はじめに
日本透析医会副会長の太田圭洋です。この原稿を書いているのは7月上旬で、本年6月に行われた診療報酬改定から1か月ほど過ぎた時期です。
2024年の診療報酬・介護報酬・障害サービス報酬の同時改定の内容に関しては、会員の先生方はさまざま情報を入手しご対応いただいていることだと思います。今回の改定も、結果として維持透析を行っている我々透析医療機関にかなり厳しい内容となりました。
今回の日本透析医会便りでは、4月に行われた愛知県透析医会総会においてお話しさせていただいた2024年改定の内容に関して私見を交え書かせていただきます。
過去の診療報酬改定では、人工腎臓点数の大幅な引き下げが行われ、透析医療機関の経営が悪化する傾向が続いてきました。しかし、2024年度の透析診療報酬改定では、人工腎臓点数の引き下げが9点のマイナスにとどまり、比較的小幅な改定となりました。そのため、2月14日の中央社会保険医療協議会の答申で新しい人工腎臓点数が公表された時点では、2024年透析診療報酬改定はほどほどの改定に落ち着いたのではないかと思われました。しかし、3月に入り出された通知などを詳細に分析した結果、今回の改定は、透析医療機関にとってかなり厳しい改定であることが判明しました。これは、過去の改定のように透析医療機関が狙い撃ちされた結果ではなく、今回の改定で日本の医療全体が被ったマイナス影響を、透析領域が非常に色濃く受けた結果でした。
1. 人工腎臓点数関連
人工腎臓の評価は時間区分、場合1、2、3によらず、すべて9点の引き下げになりました。この改定理由は、包括されている医薬品の実勢価格を踏まえた評価の見直しとされています。過去にも薬価改定における包括されている腎性貧血治療薬の引き下げ分は、人工腎臓点数の評価を引き下げてきており、2022年改定時のESA製剤などの薬価から2024年薬価への変更内容を考えると、9点の引き下げに関しては、それなりに妥当と判断することができます。
しかし、人工腎臓点数には透析液や抗凝固剤なども包括されています。2024年薬価改定では、不採算品再算定として、これらの薬価が大幅に引き上げられました。しかし薬価引き上げ分に関して、包括されている人工腎臓点数が考慮されることはありませんでした。透析液は2023年改定に引き続き2024年薬価改定でも大幅に薬価が引き上げられており、一透析あたり100円を超えるコスト増加になっています。また、ヘパリンのプレフィルドシリンジなども80円近く引き上げられており、透析医療機関の経営に与える影響は大きいです。
今回の薬価改定では、さまざまな薬の流通が不安定になったことから、特例的に企業から不採算品再算定の申請があった699成分、1911品目を対象とした大規模な再算定が行われました。出来高で診療報酬を請求できる医療領域は、その負担を国民、保険者が負う形となります。しかし、現在の日本の医療では薬剤が包括されている医療領域が多々存在します。人工腎臓点数だけでなく、DPC病院や地域包括ケア病棟、回復期リハビリ病棟、医療療養病棟の入院料もすべて薬剤が包括されていますが、これら医療機関の負担増加については、今回の診療報酬改定では一切配慮されませんでした。
最初に透析狙い撃ちではないと表現したように、薬剤が包括された診療報酬を算定するすべての医療機関が、本改定では不採算品再算定によるコスト増加のダメージを受けることとなりました。その中でも透析領域はその特性から非常に大きな影響を受ける結果となりました。
今回の改定では、導入期加算の見直しも行われました。導入期加算2、3がそれぞれ10点増点されたものの、その施設基準として「腎代替療法を導入するにあたって、心血管障害を含む全身合併症の状態および当該合併症について選択することができる治療法について、患者に対し十分な説明を行っていること」との条件が追加されました。これは中医協において弁膜症疾患の治療に関しての意思決定に、循環器医と透析医の連携の重要性が指摘された結果ですが、点数は増点となったものの、医療機関・医療者の負担はかなり増えることが予想され、改定結果として一概に喜ぶことのできる内容ではありません。
2. 短期滞在手術等基本料の評価の見直し
本改定では、2022年改定で対象手技として認められたPTA(K616-4)の短期滞在手術等基本料の見直しが行われました。これは日帰り手術実施時に算定する点数であり、従来2718点であったものが、イ、ロの二つに区分され、PTAはロに該当するとされ1359点に大幅に減額されました。この見直しは、同じ日帰り手術でも、外来で行われている割合が高い手術と、入院で行われている割合が高い手術の二つに点数が区分された結果であり、透析領域だけの評価の見直しではありませんが、PTAを多く実施している透析医療機関にとっては大幅な減収となる結果となりました。
3. 生活習慣病にかかる医学管理料の見直し
本改定では特定疾患療養管理料の対象疾患から、生活習慣病である糖尿病、脂質異常症および高血圧性疾患が除外されました。それに伴い、従来の生活習慣病管理料を見直し、検査を出来高で請求できる新たな生活習慣病管理料(Ⅱ)が新設されました。その結果、多くの一般診療所では上記3疾患に関しては特定疾患療養管理料の算定から、生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定への切り替えが想定されています。
現在、多くの透析医療施設において、特定疾患療養管理料がこれら3疾患で算定されています。しかし透析医療機関は、他の診療所と同じように生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定することはできません。本点数は医学管理が包括とされているため、慢性透析患者外来医学管理料(慢透)を算定することができなくなるからです。したがって、今まで特定疾患療養管理料を算定していた透析患者に対して大幅な減収となることが想定されます。
特定疾患療養管理料は、生活習慣病など、厚労大臣が別に定める疾患を主病とする患者について、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を行うことを評価した点数です。主病は複数でも認められるため、上記3疾患以外の他の疾患で特定疾患療養管理料を算定することは可能ですが、透析患者の主病としてふさわしい病名を選択し、適切にその主病に対して計画的な療養上の管理を行うことが求められます。この見直しも、透析領域だけの評価の見直しではありませんが、透析医療機関に非常に大きなマイナス影響を及ぼす見直し内容となりました。
4. 外来・在宅ベースアップ評価料の新設
2024年改定では、2023年12月20日の診療報酬改定等に関する大臣折衝事項に基づき、本体0.88%のプラス改定になったものの、そのうちの0.61%は看護職員など医療関係職種の処遇改善のための特例的対応と、使途を限定された形で改定率が示されることとなりました。
診療報酬ですべての医療機関で処遇改善を行うことが可能となる点数設定の方法について中医協総会において検討されましたが、医療機関により行っている医療内容も異なり、また処遇改善を行う必要がある医療関係職種の人数も異なるため、必要な財源を正確に各医療機関に配分することは困難です。
そのため、すべての医療機関が算定する初診料、再診料などの基本診療料の点数をプラスした場合に、どれくらい医療機関ごとにばらつきが出るかシミュレーションが行われました。結果として初診料に6点、再診料に2点を追加で評価した場合、大きなばらつきが出ることが判明しました。特に賃金増率(増点により対象スタッフの処遇をどれくらい上げることができるか)が低い(赤囲み)医療機関のシミュレーションも行われ、透析実施医療機関が財源不足に陥ることが示されました。透析医療機関は、再診回数が少ない割に医療スタッフ数が多いことがその医療上の特徴です。もちろん他に内視鏡専門医療機関なども財源不足になる医療領域は存在し、今回の対応が透析医療機関を狙い撃ちしたものではありませんが、今回の処遇改善のための対応により透析医療機関が割を食う形になったことは確かです。
財源が不足する医療機関への対応を中医協で検討した結果、1.2%までの財源は、8通り用意した外来ベースアップ評価料(Ⅱ)により確保できる救済策が作られました。しかし、ほぼすべての医療機関に2.3%分の処遇改善財源を配布することが目的に検討された点数にもかかわらず、透析医療機関はこの改定領域でもマイナスの影響を受ける結果となりました。

さいごに
年々、透析医療機関を取り巻く環境は厳しくなっています。2024年改定では透析技術料はある程度維持されたものの、さまざまな要因で透析医療機関には厳しい影響がでることが予想されます。最近の改定を経験し改めて実感しておりますが、透析医療に対する風当たりは、政治の世界のみならず医療界の中でも非常に厳しいものがあります。
その中で透析医療の実情を理解いただき、適切に透析医療を行っていくことができる環境を維持していくことは決してたやすいことではありません。
日本透析医学会の統計調査では2022年末患者数が減少したことが判明しており、日本全体の透析患者数が減少局面に入った可能性もかなり高くなっています。患者の減少局面では、透析医療機関の経営は急速に悪化することが以前から指摘されています。我々は今後、我が国の透析医療をなんとか守っていくために、さまざまな活動をしていく必要があります。
毎年、日本透析医会だよりで書かせていただいておりますが、この状況を改善していくためには透析医の団結が必要です。現在の透析医療のおかれた状況を分析し、理論武装し働きかけていく必要があることは当然でありますが、実際の交渉過程では、より生々しい組織力、そしてその組織力に裏打ちされた交渉力が重要です。残念ながら、愛知県透析医会会員の約半分は、いまだに日本透析医会へ加入していただいておりません。ぜひ、日本透析医会にご加入いただき透析医の組織としての力を高め、透析医療の将来のために力をお貸しいただきたいと思います。(文責 太田圭洋)